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テストモニター

お久しぶりです。
色々と迷走とかしているうちに書いたssを投下します。

駄ー犬さんのイラストから書き上げたssになります。
また、駄ー犬さんのイラストも使用させてもらっています。
この場を借りて改めてお礼を申し上げます。

ではでは本編へどうぞ~





「装備のモニター…ですか?」
「ええ。是非貴方にお願いしたいのですが、どうでしょう?」
アースラの一室で、フェイト・テスタロッサは困惑していた。
先日アースラの面々が違法研究者の施設を強制捜査した時に押収された物品の中に、
青と紫のボディスーツがあった。
記録によればそれは魔力に頼らない装備で、高い耐久性と防御性を兼ね備えているとあった。
技術部で調査した所、まさにその通りだと結論づけられた。
管理局としても局員の保護は重要課題の一つであり、これが実用化できれば魔力を持たない
局員も前線での活動が可能になりうるとしていた。
だが実際の性能は未知数であり、魔導師も実用可能かどうかも不明。
そこで高ランク魔導師で、尚且つ重要役職についていないフェイトの名前が挙がった。
「いくつか確認させてもらってもいいかしら?」
「はい、どうぞ」
二人の会話を遮ったのはフェイトの保護者となったリンディ・ハラオウンだった。
「何故フェイトさんなのかしら?こういっては何だけど、私の指揮下にはもう一人該当する
 子がいるのだけれど?」
「高町なのは、さんですね?」
「ええ。先程の話では高ランクで階級の低い者でしたよね?」
「そうです。では実際にこの装備の説明をしながらその辺りも説明しますね?」
「はい、お願いします!」
女性の言葉にいち早く反応したのはリンディではなくフェイトだった。
もし自分が駄目ならなのはに…
なのはの負担になるくらいなら自分が代わりに、とフェイトは考えていた。
その考えが分かっているのか、リンディは困ったような笑顔を浮かべていた。
「まず今回フェイトさんにテストしてもらうこのスーツですが、現時点で判明している性能は
 高い防御力と耐久性です。そして今名前のあがったなのはさんとフェイトさんを比較した場合、
 なのはさんは砲撃型、フェイトさんは近接戦闘型と判断しました。今回のテストでは判明している
 性能実験が主となるので、元々防御力の高いなのはさんではなく、フェイトさんに依頼した次第です」
「…なるほど。ではもう一つ、フェイトはまだ子供です。見たところ彼女の背丈にあうスーツではなさそうですが?」
「その事なのですが…実は明確なサイズは二種類しかないんです」
「え?」
「では?」
「いえ、それが…驚くべき事にこのスーツは伸縮性に優れていて、ほぼ全ての人に対応できるのです」
「なっ!?」
「そんな事が可能なのか!?」
リンディと、今まで黙って聞いていたクロノも、驚愕に目を見開いた。
「ええ。小さ目のサイズと大き目のサイズとの違いはありますが、小さいサイズでもよほど体格が大きくなければ
 大人でも着用可能でした」
「……」
「……」
スーツのデータを検証し始めるクロノとしり目に、リンディは口元に手を当てながら
考え始めた。
今の所問題点らしき問題点は存在していない。
実験台と見えるかもしれないが、自身も過去に装備テストをした事がある。
そして本人がやる気を見せている。
なにより上からの指令となれば簡単に拒否はできないだろう。
そう結論づけたリンディはフェイトに顔を向けた。
「フェイト、貴方はどうしたい?」
「え?でもこれって命令なんじゃ…」
「いくら命令とはいえ本人に了承を得ないでするのは人事くらいだ。こういった事には必ず本人の
 同意が必要になる。だから君の本心を言うといい」
データの精査を終えたクロノからもそう言われたが、フェイトの心は決まっていた。
「私、やります」
「…いいのね?」
「はい。私が協力して皆の助けになるなら」
「わかったわ」
プレシアの言われるがままだった昔とはもう違う。
リンディはフェイトの表情からそう感じていた。
「ありがとうございます。では了承という事で今後の予定について移らせてもらいますね?」
そしてフェイトはしばらくの間、学校が終わった後に2~3時間程度データ取りに、そして
休日にはさらに長時間協力する事になった。
任務などで拘束されていた時間がデータ収集に変わっただけとあって、特に反対もなかった。










「では本日より宜しくお願いしますね?」
「はい、こちらこそ」
翌日よりフェイトは依頼してきた女性、ヌーラ・インスィと共に研究施設にいた。
「基本的には私と二人でテストをしていく予定です。よろしいですね?」
「はい」
「では早速こちらを」
「……」
フェイトは渡されたスーツを見て、緊張感に包まれていた。
今まで管理局の為に任務に就く事はあっても、今回のような実験に参加するのは初めてだ。
自分の頑張り次第で今後の管理局の体勢が変わるかもしれないと言われていた事や皆の
期待を集めている事を思い出していた。
「着方は首の部分を思いっきり広げて、片足から入れてください」
「は、はい」
初めて着るタイプの服に戸惑っていると、女性が優しく教えてくれた。
「んっ!」
意を決して開口部を開くと、思ったより簡単にスーツは広がった。
予想外の柔軟性に驚きつつも、フェイトはゆっくりと右足を入れていった。
「ん…」
普段制服と一緒に着ているパンストの時のように心地よい締め付けを感じながら左足、
太ももと袖を通していく。
「んっ…きつ…」
「大丈夫ですか?」
腕や足にあった皺を伸ばしつつフェイトが呟いた言葉に、女性が声をかけてきた。
「あっ…はい、大丈夫です」
「そう?もし気分が悪くなったり身体に変化があったらすぐに言ってくださいね?」
「は、はい!」
「一応こちらでもモニターしてますが、本人にしか分からない事もあるから、ね?」
「わかりました」
こちらを気遣ってくれる女性に、フェイトは好感を抱きつつあった。
「ではまず耐熱性から検証してみましょう。こちらの指示に従ってください」
「はい」
「ああ、それと」
「?」
「もしもの事を考えて少しでも現状から変化があった時はすぐに言ってくださいね?
 実験は大事ですが、貴方が無理をしては意味がありませんから」
「フフッはい」
「?何かありました?」
「いえ、なんでも」
過保護とも言える女性の言動に、フェイトは思わず笑みをこぼした。
女性の方はなんの事かは分かっていないようだが。






「お疲れ様です。本日はこれで終了になります」
「あ、はい。ありがとうござます」
そしていくつかのテストを終えると、女性がタオルと飲み物をもって現れた。
装備テストという事でどんな事をするのかと緊張していたフェイトだったが、
あっけなく終わった事で拍子抜けしていた。
「いかかがでしたか?こういった事は初めてと伺ってますが…」
「あ、その、あの…思ってたより早く終わっちゃって…」
「あら、もしかしてもっとスゴイ事を想像していたのかしら?」
「うぅ…はい」
フェイトは女性の言葉に恥ずかしくなり、タオルで顔を拭きながら赤くなった顔を隠した。
「まぁでも…貴方の出自を考えればそう思い至るのは当然かもしれませんね」
「…はい」
「あぁ、ごめんなさい。貴方の事はある程度リンディ提督から聞いているのだけれど、
 そんなつもりで言った訳じゃ…」
「いえ、お気づかいありがとうございます」
渡された飲み物を飲んで一息ついたフェイトは、しばらく女性と世間話に興じていた。
こんな事をしていていいのか?というフェイトの質問は、女性に笑顔で答えられえた。
「貴方とのテストで貰っている時間はまだ余っていますから。
 もちろん貴方が良ければだけど」
そう言われてしまっては、心優しいフェイトにとって断る理由はない。
なによりこれからしばらくの間彼女とテストをこなしていくのだから、こういった交友は大切だと思っていた。
「さて、そろそろ時間ですね。今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
時計を確認した女性が立ちあがると、つられてフェイトも立ち上がり握手を交わした。
「じゃあスーツも着替えないとだけど…一人でできそう?」
「…ど、どうでしょう…」
女性に言われてようやくフェイトはスーツのままだという事に気付いた。
そしてどうやって脱ぐのかがわからない事にも気づいて苦笑いを浮かべた。
「では私もお手伝いしましょう」
「で、でも!」
「気にしないで?貴方をきちんと帰すまでが私の仕事ですから」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ」
女性の柔らかな笑顔に、フェイトは嬉しそうに頷いた。
そして更衣室に移動すると、女性はフェイトの後ろに回ってスーツに手をかけた。
「まず私がスーツを広げて下ろしますので、片腕ずつ抜いていきましょうか?」
「はい」
女性がフェイスガードを外し首元を広げると、フェイトの肩幅まで簡単に広がった。
そして手袋を外すように片腕ずつスーツを脱いでいく。
その途中、フェイトは解放感にも似た感覚を感じていた。
それはスーツの圧迫感が無くなったからなのか、それとも外気に触れるようになったからか。
「ふぅ」
「大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
スーツを脱ぎ終わり、素肌を晒したフェイトは一つの事に気付いた。
それは自分が汗ひとつかいていない事だった。
本来衣服を着て行動していればどんな服でも汗をかく。
だがこのスーツは熱が籠る事も汗が溜まる事もないようだった。
「あ、あの!」
「どうかした?」
「実は…」
その事に気付いたフェイトは早速女性にそれを伝えた。
それを聞いた女性は驚くと共に、フェイトに感謝を伝えた。
「このスーツの性能が高い事は事前に分かってはいましたが、まさか此処までとは…」
「スゴイですね」
「ええ。でもそれに気付いた貴方もね。言ってくれてありがとうございます」
「い、いえ!これも大切なデータになるかと思って」
「フフッそれでも、ね?」
「…はい」
生まれたままの姿で女性に頭を撫でられるフェイトは、顔を赤くして身を任せていた。
そして裸という事を指摘されて、慌てて服を着はじめていた。
それを女性は微笑ましそうに見つめていた。
「では、また明日」
「はい、わかりました」
「もし体調が優れないようならコレに連絡をください。時間はいつでもOKですから」
「わかりました。それじゃあ」
「ああ、もう一つ」
「?」
「いえね、今さらなんだけど…貴方の事、名前で呼んでもいいかしら?」
「え?」
「協力要請の時は誰の事かをはっきりさせる為に名前で呼ばせてもらったけど、実際のテスト中は
 なんだか呼びづらくって…どうかしら?」
「……」
「もちろん貴方が良ければ、だけど」
「…わかしました。でもそれには条件があります」
「条件?」
「はい!それは私も貴方の事を名前で呼ばせてもらう事です!」
「そ、そんな事でいいの?」
「そんな事じゃないです!」
不思議そうにする女性に、フェイトはムッとした表情で答えた。
フェイトにとって名前を呼びあう事は、その人物と関係を深めていくに当たり重要な事だ。
それはかつて彼女を救った少女から教えてもらった大切な事。
そして今のフェイトを支える事。
だからこそフェイトは女性にそう言った。
これからも女性と良好な関係でいる為に。
「そう、貴方にとって大切な事なのね」
「はい。だから…」
「わかったわ。じゃあお言葉に甘えて名前で呼ばせてもらうわね?フェイトさん」
「っはい!ヌーラさん!」
笑顔でフェイトの名前を呼ぶ女性、ヌーラにフェイトは満面の笑みを浮かべた。




「こんにちわ!」
「いらっしゃい、フェイトさん」
それからフェイトは嬉しそうに女性を訪問するようになった。
女性とこなしていくテストでは良好、いや想定以上の成果をあげている。
フェイトの努力でどうなるものでもないが、その結果にフェイトは素直に喜んだ。
そして女性、ヌーラともかなり仲良くなれた事もその理由の一つだろう。
日中は親友達と学校生活を存分に謳歌し、そして放課後は女性とのテストに協力する。
学校生活はも楽しい事ばかりで、新鮮な事も多かった。
女性とのテストは結果がすぐに出る事もあり、誰かの為に立っているという実感があった。
フェイトは充実した毎日を送っていた。
「じゃあ、今日もよろしくね?」
「はい…」
女性に促されてスーツを手に取る。
スーツの上には数日前にはなかった物が乗っている。
それは小型のインターフェイス。
フェイトの詳細なデータを取る為に数日前から着けている物。
スーツを一度置き、二つあるインターフェイスをそれぞれの手で握るとそのまま頭に着けた。
「んっ!!」
このインターフェイスを着けた瞬間はいつも身体の中をゾクゾクとしたナニカが走る。
フェイトにとってそれは心地よく、その後もその感覚は続いていた。
「はぁ……」
ため息とも吐息とも分からぬモノを吐き出したフェイトは、そのままスーツに手をかけた。
テストモニター1
「んっしょ…」
もはやスーツを着る事も手慣れたもので、あっという間にフェイトはスーツに包まれた。
「んっ…」
頬を上気させたまま、フェイトは皺を伸ばしていく。
その様子を事情の知らない人間が見れば、スーツに興奮しているように見えるだろう。
フェイト自身もこの心地よい気分にずっと浸っていたいという気持ちまでもっていた。
「では昨日話した通り、本日は疑似戦闘検証を行います。いいですね?」
「…はい」
女性の話も、フェイトはどこか心此処に非ずといった表情で聞いていた。
その様子を見て、女性は注意するどころかクスっと微笑を浮かべていた。
「では実験場に移動してね?」
「…はい」
普段テストを行っている部屋に入ると、フェイトはデバイスを起動した。
しかしバリアジャケットは展開せず、バルディッシュもハーケンフォームで起動していた。
『では仮想敵を出しますね?』
「え!?」
女性がシュミレーターを起動させると、今まで朦朧としていたフェイトの意識は一気に覚醒した。
フェイトの前に現れた仮想敵。
それは管理局の武装局員の姿をしていた。
「あの!これって!」
『あら?フェイトさんはシュミレーターの使用は初めて?』
「は、はい…ど、どうして武装局員さんが敵役なんですか?」
『どうしてって言われても…これが一般的な戦力だから、かしら?』
「一般的?」
『ええ。詳しくは知らないけど、武装局員の平均より少し上の実力だと聞いているわ。
 そうする事で訓練には最適なんだとか』
「でもわざわざ味方の姿にする必要は…」
『変に先入観を与えない為とか訓練だと実感させる為って聞いたけど…』
「そうなんですか…」
女性の説明に一定の説得力があったのか、フェイトはすんなり納得した。
『他に何か気になる事はある?』
「いえ、大丈夫です。この人達と戦えばいいんですね?」
『人、という訳でもないんだけどね。顔の設定すらしてないし…ともかくいつも通りに戦ってくれれば大丈夫よ』
「はい、わかりました」
よく見れば口や鼻はあるようだが、瞳はなく作り物だという実感が明確になってきた。
そのお蔭でフェイトの心は少し軽くなった。
「いきます!」
気持ちを切り替えたフェイトは、本気で敵に挑みかかった。
「はっ!」
相手は一定のダメージを与えると消えるようで、開始早々三人の内の一人が消えた。
それもそのはず。
フェイトの実力をもってすれば、一般の武装局員は相手にもならないからだ。
他の二人もフェイトを捉えきれず、あっけなく消滅した。
『一戦終えたけど、どうかしら?いつもとの違いはある?』
「はい。感覚的にはソニックフォームに近い感じです。でもいつもより速度が増している気がします」
『そうね。デバイスからのデータも上がっているわ。デバイスの方はどう?』
「バルディッシュ?」
『yes.恐らく今日までのテストの結果により、精神的なストッパーが無くなったからと推測します。』
「ストッパー?」
『ふむ。もしかしたらフェイトさん自身は成長によってもっと早く動けるようになったけど、
 気持ちは今までのままだから無意識にセーブしていたのかもしれませんね』
「そう、なのかな?」
『少なくともデータ上ではその可能性がありますね』
「成長してるんだ、私…」
自分の成長を実感したフェイトは嬉しくなって頬を緩ませた。
『さて、では続けてもいいかしら?』
「はい!」
自信を得たフェイトは、さらに気合を入れてデバイスを構えた。
そんなフェイトの前に、続々と局員を模した敵が現れていった。
『続いては多数の敵が相手の場合でのテストです。数が多いので被弾もあると思いますが、
 非殺傷設定ですから心配しないでください』
「はい!」
気合十分といった表情でフェイトは集団に突撃していった。
「フッ!」
先程のテストでフェイトの精神によって速度が変化するという事を伝えられた為か、
もっと早く動けると思う事でフェイトは雷の如き動きをするようになっていた。
「ぐっ!」
だがそれは彼女にとっては未知の領域であり、速度は出せても意識が追い付いていなかった。
そのせいで度々フェイトは複数の局員に抑えられ、魔力弾を受けていた。
「っはぁ!」
しかし今の彼女は例のスーツを身に着けている。
魔力を阻害し、耐久性に優れたそのスーツは一切のダメージを受け付けなかった。
フェイトも最初は驚いていたが、次第にそれが当たり前のように戦っていた。
「このっ!」
どれだけ切っても敵は減らず、フェイトは内心焦りと苛立ちが募っていた。
敵の攻撃は当たらず、当たったとしても意味は無い。
だがこちらの攻撃も当たりはすれど、数が多すぎる。
もはやフェイトの中ではテストという事を忘れ、敵を倒す事が全てになっていた。
それは彼女の気質からは考えづらい事ではあるが、状況と頭に付けたインターフェイスにより
徐々に歪められていた。
そして時折聞こえる女性の声。
敵を切った瞬間や、敵が消えた瞬間に幻聴のように聞こえてくる。
フェイト自身は意識してはいないが、その声が聞こえると嬉しくなっていた。
そして最後の敵を倒した所で、ようやく局員は出現しなくなった。
「ハァ…ハァ…ハァ…ふぅ…」
息を切らし、深呼吸するフェイトの表情は達成感と充実感に溢れていた。
それは敵を倒しきったという実感。
自分がもっと強くなれたという実感。
それらは得も言われぬ快感となってフェイトを満たしていた。
「お疲れ様」
「あっ…」
いつものように女性がタオルと飲み物を持って現れると、ようやくフェイトはテスト中だった
という事を思い出した。
「どうかしましたか?」
「い、いえ!大丈夫です」
「そうですか?」
「…はい」
少し女性に後ろめたい気持ちになりつつ、フェイトは隠すようにタオルで顔を覆った。
「ん…ん…ん…ぷぁ…」
「それにしてもスゴイですね」
「え?」
「このスーツもですが、フェイトさん自身の事です」
火照った身体を冷やすように飲み物を飲んでいたフェイトに、女性はそっと手を置いた。
一瞬ピリッときた感覚に驚いたフェイトだったが、それよりも女性の言葉が気にかかった。
「私、ですか?」
「ええ。このスーツとの相性が良いというかなんというか…簡単に言えばこのスーツを完璧に
 近い形で使いこなしている、という感じでしょうか」
「はぁ…」
女性からの賛辞に、フェイトは今一つ実感を持てずにいた。
「実感がもてませんか?」
「はい…必死に戦っていたので…」
「そうかしら?終わった後のフェイトさんの表情はやりきった感じでしたよ?」
「え?」
「見てみます?」
女性がモニターを空中に映すと、確かにモニターの中のフェイトは笑っていた。
「実際、フェイトさんもいつも以上に速く動けた、と思いませんでしたか?」
「それは…はい。最初は身体に思考が追い付かなかったんですけど、だんだんとついて
 いけるようになりました」
「でしょう?だから自信を持ってください。貴方はこのテストで確実に強くなってますよ」
「…はい」
女性がフェイトの手を握って微笑むと、フェイトは嬉しそうに頷いた。











そして幾日かの戦闘テストを経て、フェイトの前には女性ともう一人がいた。
「今日はご足労ありがとうございます」
「いえ、私に協力できる事ならば。それに、相手がテスタロッサというのならば引き受けない
 訳にはいかないですから」
そのもう一人とはヴォルケンリッターが将、シグナムだった。
フェイトはいつものようにスーツに着替えていたが、シグナムは制服のままだった。
「では本日のテストの内容をお伝えします」
女性がそう言うと、二人は女性に顔を向けた。
「本日はより実戦に近い形でのテストになります。攻撃は非殺傷設定ではありますが、
 危険なテストである事には変わりありません」
「失礼、少しいいか?」
説明をしている女性に、シグナムはそれを遮った。
「どうぞ?」
「より実戦に近いという事だが、どうして私が選ばれたのか教えてもらいたい」
シグナムの言葉に、女性は顔を顰めた。
「実はこのテストは上層部からの命令で行われる事になったものです。
 私自身は反対したのですが、局員の安全の為だと押し切られてしまって…」
「それと私とどんな関係が?」
「ここからは私の想像ですが、貴方達が元犯罪者だからではないかと…」
「「……」」
「もちろん直接聞いた訳ではありません。ですが最初は殺傷設定で行うべきと伝達が来たものですから…
 そう勘ぐりたくもなります」
「…殺傷設定でのテストの理由はどのような?」
「今までフェイトさんのおかげで各種データは採取できました。
 しかし実戦とテストでは状況もなにもかも違う、との事でした」
「つまり私の炎熱変換とテスタロッサの電気変換を実戦でスーツが耐えられるかテストしろ、
 という事ですか…」
「ええ、実際の攻撃とテストでは威力も状況も違いますからね」
「……」
「正直私は気が進みません。テストとはいえ貴方達にこんな殺し合いのような真似…」
「私は大丈夫です」
「フェイトさん」
「テスタロッサ」
俯く女性とシグナムに、フェイトはそれを受け入れた。
「シグナムを巻き込む事は申し訳ないですけど、これで皆が安全に任務に付けるようになるなら
 その方がいいと思います」
「ですが…」
「私のした事の罪滅ぼしができるなら、尚更です」
笑顔で答えたフェイトに、シグナムも笑みを浮かべた。
「そうだな、そうであれば私も全力で協力しよう」
「シグナムさんまで…」
「気にしないでください。それに…」
「それに?」
「テスタロッサとの全力勝負は私も望んでいた事ですから」
シグナムがフッと笑みを浮かべながらフェイトを見ると、フェイトもコクンと頷いた。
「わかりました。でしたら私もクヨクヨしてられません!全力でお二人をサポートします!」
二人の気持ちを聞いて、女性は気持ちを切り替えた。
「ではシグナムさんにもスーツをインターフェイスを着用してもらいます」
「む、そうですね」
「じゃあ私が手伝います!」
「そうか、テスタロッサはもう何度も着ているのか」
「はい!」
「ではお願いします」
女性がしばらく待っていると、顔を赤くしたフェイトとシグナムがスーツ姿で現れた。
「っ……」
「……」
「おや、どうかされました?」
「いや…着替えをテスタロッサに手伝ってもらったのですが…」
「?」
「シ、シグナムがいけないんですよ!途中で変な声出すから!」
「なっ!お前の手つきがいやらしいからだろう!?」
「あらあら」
恥ずかしがりながら言い合いをする二人を、女性は微笑ましく見守っていた。
「うぅ…」
「くぅ…」
女性がいる事を思いだし、二人は真っ赤になりながら俯いた。
「さて、それはさておきシグナムさん?」
「…なんだろうか?」
「そのスーツに違和感や動きにくさはありますか?」
女性の問いにシグナムは改めてスーツを確認すると、驚いていた。
「いや、ないな。むしろ動きやすいくらいだ」
「それはよかった。貴方の全力が出ないのであれば今回のテストは無駄になりますから」
「ああ。主から頂いたバリアジャケットには及ばないが、それに匹敵するレベルだ」
「ならシグナム、先に練習をしてください」
楽しそうに自身をチェックしているシグナムに、フェイトはそんな提案をした。
「何故だ?」
「私もシグナムと戦うのならお互いに全力で戦いたいです。だからそのスーツでの戦い方に
 慣れておいてほしいんです」
フェイトの言葉にシグナムはフッと笑みを浮かべた。
「ほう、ならばその言葉に甘えさせてもらおう。だが後悔するなよ?」
「望むところです」
そしてシグナムはしばらくの間、身体を動かしてスーツの感触を確かめていた。
「よし。もういいだろう」
「では」
「ああ」
シグナムがフェイトと向き合うと、二人は自然に臨戦態勢に入った。
『では、開始!』
「行きます!」
「来い!」
フェイトはまずシグナムに突撃すると見せかけ、その横を通り過ぎていった。
拍子を外されたシグナムだったが、すぐさま振り返ってレヴァンティンを振りぬいた。
しかしそこにフェイトはもういなかった。
自身に影が出来ている事に気付いた時にはもうシグナムはフェイトに一閃されていた。
驚愕。
それ以外の言葉が浮かばなかった。
シグナムはフェイトと何度となく戦ってきた。
フェイトが実力者である事も、成長期である事も理解していた。
その証拠に手合せする度にフェイトが強くなっている事を肌で実感していたからだ。
だが目の前のフェイトはどうだろう?
スピード、キレ、威力、その全てがシグナムの想定を軽く超えていた。
「ハハッ」
だがシグナムはその事実に喜びを感じていた。
元々強者との死闘に歓びを感じる彼女である。
相手が強くあればある程、シグナムの心は躍っていた。
「いいぞテスタロッサ!そうでなくてはこのテストを受けた意味がない!」
「そう言ってられるのも今の内ですよ」
対するフェイトも不敵な笑みを浮かべていた。
今この瞬間、二人は相手との命のやりとりに興奮していた。
そんな二人の様子を女性は嬉しそうに眺めていた。
それはスーツの性能が証明されているからか。
それとも二人が嬉しそうに戦えているからか。
彼女の真意は本人にかわからない。





「ふぅ…私の勝ちですね?」
「ぬぅ…そのようだ」
向かい合う二人は、対照的に己のデバイスを下ろした。
結果はフェイトの勝利だった。
だんだんとフェイトの超スピードに対応していったシグナムだったが、
スーツでの戦闘に関してはフェイトの方が一日の長があった。
「お二人共お疲れ様です」
いつものように女性がタオルと飲み物を持って現れる。
それを受け取ったフェイトとシグナムは同じ長椅子に腰掛けた。
「それにしても凄かったです。あんな戦い初めて見ました」
「そうですか?だがいつも以上に充実した戦いではあったな」
「はい!シグナムにも勝てましたし!」
「言うようになったじゃないか?」
「事実ですから♪」
「…まあいい。最後も僅差だったんだ。すぐにまた追い越してみせるさ」
「そうはいきませんよ!」
まるで姉妹のようなやりとりを女性は微笑ましく見つめていた。
「因みにお二人はそのスーツをどう感じましたか?」
「私はいつも通り気持ちよく動けました」
「私の方は…そうだな、テスタロッサの攻撃をいくつか受けてダメージがほとんどない事に気づいてからは
 遠慮なく動けていた気がしますね」
「フフッシグナムもリミッターが外れたのかもしれませんね」
「リミッター?何の話だ?」
「実はですね…」
女性からフェイトのスピードが上がった仮説を聞いたシグナムは、なるほどと頷いていた。
「面白い仮説ですね。私自身そんな感覚があっただけに腑に落ちる」
「怪我やダメージを軽減して、さらには使用者の潜在能力まで引き出すなんてスゴイです!」
「そうですね。今回のテストでそれらが立証できたでしょうし、上も満足でしょう」
それから三人はしばらく雑談に興じていた。






「こんにちわ」
「あら、いらっしゃい」
テストが全て終了し、スーツの本格導入が検討され始めていた。
そんな中、フェイトは未だに女性の下を訪れていた。
「今日も任務だったの?」
「……はい」
「そう、また駄目だったのね?」
「……」
女性の言葉に、フェイトは顔を伏せるだけだった。
フェイトはテスト終了後、普段通りの生活に戻っていた。
だがテストの影響は、フェイトの精神を確実に蝕んでいたいた。
といっても学校や日常生活においてはなにも変わっていない。
最も変わったのは局員としての任務だった。
その能力の高さから前線での任務が多いフェイトではあるが、それが彼女を苦しめていた。
スーツでの全力戦闘に慣れ切っていた事で通常のバリアジャケットでの戦闘は、枷ともいえる
状態になっていた。
意識と肉体の乖離。
それは戦闘中において大きなマイナスとなる。
意識がそちらに割かれるだけでなく、動きがワンテンポ、ツーテンポ遅れてくる。
それがどれだけフェイトにとってストレスであるかは想像にしがたい。
元より速度が最大の武器であるフェイトにとっては、精神を削る作業になっていた。
「大丈夫、このスーツが正式採用されればもうそんな事を悩まなくていいんだから」
「…もっと早くならないんですか?」
「こればかりは、ね?それに管理局の意思決定が遅いのは有名だから」
「そうなんですか?」
「ええ。特にこういった利権が絡みそうな事柄はね」
「……」
悲しそうに見上げるフェイトを女性は優しく頭を撫でていた。
女性の言葉を聞いたフェイトは、悔しそうに唇を噛みしめた。
「それまでは此処でストレスを解消、でしょう?」
「はいっ!」
女性がそう言うと、フェイトは打って変わって嬉しそうに笑顔を浮かべた。
そして女性からスーツを受け取ると、いつものように着替え始めた。
テストモニター2
「んっ…」
スーツに袖を通し、皺を伸ばす。
スーツに慣れ始めた直後はこの時間はもどかしく思っていたフェイトだったが、
今ではこの時間も楽しむようになっていた。
「はぁ……」
着替え終え、スーツに包まれる感覚に酔いしれるフェイトは、高揚した表情で自分の身体を抱きしめていた。
スーツの圧迫感で今までの自分ではないと実感できる。
このスーツでいる今の自分こそが本当の自分であると、フェイトは思うようになっていた。
『さぁ、今日も敵を思う存分倒しましょうか』
シュミレーターのに移動したフェイトに、女性の声が響く。
それを聞いたフェイトから表情が消える。
目の前の者は敵。
今の自分を肯定すると同時に邪魔する者。
だから余計な感情なんていらない。
邪魔をするから倒す。
今の自分が本当の自分だと実感する為に倒す。
ただそれだけだった。
「フフッ」
いつものようにものの数分で100を超える武装局員を倒したフェイトは笑顔だった。
『今日は少し趣向を凝らしてみたわ。存分に楽しんでね?』
「?」
女性の言葉に首を傾げるフェイトだったが、目の前に現れた者を見て笑みを深めた。
フェイトの目の前に現れた人物。
それは普段のバリアジャケット姿のフェイトだった。
そのフェイトはこちらを忌むべき存在だとでも言いたげな表情で睨んでいた。
『それは今までのフェイトさんのデータから作ったモノよ。疑似的にデバイスも
 再現しているから正真正銘もう一人のフェイトさんね』
それを聞きながらフェイトの表情は益々蕩けていった。
目の前のフェイトに勝てば自分は強くなったと証明できる。
目の前のフェイトを倒せば今までの弱い自分と決別できる。
それがなにより楽しそうで、心地よさそうで、気持ちよさそうだった。
「ハハッ!」
フェイトは嬉しそうに突撃する。
「ハハハッ!」
そして楽しそうにフェイトに斬りかかる。
「アハハハハ!」
その姿はもはや別人だった。
「ウフフ。ようこそ、フェイト・テスタロッサ。私達の側に」
それを見ていた女性は嬉しそうにモニターを撫でていた。
そしてそれから数日後、フェイトの家族や友人達に一つの報せが届いた。












『フェイト・T・ハラオウン、行方不明』















「リンディさん、フェイトちゃんはいったい何処に…」
「ゴメンなさい。私も色々とツテを使ってはみてるけど…」
「……」
フェイトが行方不明になってから既に一週間が経っていた。
なのはやはやて、ヴォルケンリッター達はアースラに集まっていた。
各自が集めた情報を共有する為ではあったが、一向にフェイトの行方は分からなかった。
「テスタロッサが消える直前までその兆候はなかったのですか?」
「…ええ。普段通りに学校から帰ってきて、普段通りに話していたわ」
「そうですか…」
「…こんなんじゃ母親失格ね。娘の変化に全く気付いていなかった…」
「それは!…私達も同じです…」
顔を伏せるリンディに、なのは声を荒げて悔しそうに唇を噛んでいた。
それは周りの者も同じ。
フェイトの事をこの場所にいる全員が理解しているようでしていなかった。
彼女が何を思い、何をしていたのか。
もしかしたらなんらかの変化があったかもしれない。
自分達がもっとフェイトの事を見ていれば…
そう思わずにはいられなかった。
今となってはもう全てが手遅れだった。
「!?」
「なんだ君達は!?」
その場にいた全員が意気消沈していると、バタバタと武装した者達が入ってきた。
「全員その場を動かないように!我々は時空管理局、監査部の人間である!」
遅れて入ってきた男の言葉に、リンディやクロノは驚愕した。
「監査部だって!?いったい何を!?」
「少し静かにしていただこうクロノ執務官。貴殿も大いに関わる事なのでね」
「なんだと?」
男に食いかかろうとするクロノを局員が抑える。
クロノは訝しげな表情を浮かべてリンディの方へ顔を向けた。
目の合ったリンディが無言で頷くとクロノはスッと腕を下ろした。
「よろしい。ではまずは伝達事項だけを伝える。内容については追々説明しよう」
男が空中ディスプレイを浮かべると、そこにはリンディ、クロノ、シグナムが写っていた。
「リンディ・ハラオウン提督、ならびにクロノ・ハラオウン提督、そしてヴォルケンリッター・シグナム。
 貴殿らにはフェイト・テスタロッサ失踪事件について出頭命令が出ている。大人しく我々に同行してもらう」
「なっ!?」
「なんだと!?」
「そんな!?」
各自が驚愕と怒りをもって男を睨みつける。
「理由をお聞かせください」
そんな中リンディだけは冷静に質問を投げかけた。
「よろしい。諸君らも理由を聞けばいくらかは納得できるだろう」
なのは達から不信な目線を向けられても男は全く動じていなかった。
「まず我々はフェイト・テスタロッサ、彼女が行方不明になった経緯に何があったかを
 調べている。その調査で彼女が失踪する直前に密に連絡を取り合っていた女性が浮上した。
 それがこの『ヌーラ・インスィ』。君達もいくらかは知っているだろう?」
男の言葉に全員が頷いた。
直接会ったリンディ、クロノ、シグナムはもちろん、なのはやはやて達も、フェイトから
話を聞かされていた。
「君達は彼女が技術士官だと思っているようだがそれは違う」
「ではなんだと?人身売買のメンバーだったとでも?」
クロノが失笑気味に訪ねると、男は首を横に振った。
「そうであれば我々も苦労しないのだけどね。彼女は局員や犯罪組織の人間でもない。
 いや、記録上『ヌーラ・インスィ』という人間は存在していない」
「な!?そんな馬鹿な!?誰かによってデータが…!?」
「ようやく理解してくれたかね?クロノ執務官。そう、管理局に出入りする人間がデータ上、
 さらには顔認証すら登録がないという事はあり得ない。これが管理外世界の犯罪者で
 あるのなら話は別だが、彼女は技官として本局に一定期間在籍していた。
 こんな事は内部からの手引きがなければ絶対に不可能だ」
男の語った事になのは達はもちろん、冷静だったリンディすら驚愕の表情をしていた。
「彼女の記録はそのほとんどが抹消されていたが、ごくわずかなデータのみ復元できた。
 そのデータから貴官達が接触していたと判明した。
 さて、これが三名の同行理由だが何か質問はあるかね?」
男は極めて冷静に説明を終えた。
彼は彼女達に同情も感情移入もしていない。
まるでそれが仕事だというように佇んでいた。
「あの…ええですか?」
周りが顔を伏せる中、はやてが手を挙げた。
「今の説明への質問か?それともそれ以外の質問か?」
「いえあの…リンディさん達が連れていかれるん理由は直接その人に会ってから、ですか?」
「その通りだ」
「それはデータからわかった事ですか?」
「今現在はそうだ」
「じゃあそのデータも誰かに書き換えられた物やないんですか?」
はやての言葉に、なのはやヴォルケンリッター達は顔を上げた。
男に視線が集まる中、彼はふぅとため息をついた。
「どうやら少し誤解しているようだが、我々はこの三名がこの件の首謀者とは考えていない」
「そうとは思えへんのですけど?」
「そうだろうな。だが三名が関わっていた事は事実であると我々は考えている。
 実際に君達は件の彼女に会っていたのだろう?」
はやてが三人に視線を向けると、三人共ゆっくりと頷いた。
「我々はフェイト・テスタロッサの行方と、それに関わったであろう不届き者の捜索が主な任務ではあるが、
 我々とて最初から身内を犯人と決め付けている訳ではない」
「……」
「三名に同行してもらうのはより詳細な事を聞きだし、より正確なデータを得る為だ。
 決して犯罪者として扱うものではない」
「……」
納得のいかない、という表情のはやてに、なのはは手をかけた。
「なのはちゃん…」
「はやてちゃん。この人を信じよう」
「でも…」
「大丈夫だよ。私からもいいですか?」
「ああ」
「リンディさん達はどのくらいの間調査に協力するんですか?」
「…本来であれば本人以外にそれを伝える義務はないんだが…君達にも関わりがある事だ。
 三名の拘留は一定のメドが着くまで、としている」
「それって!」
「ああ、事実上無期限の拘留だ。そしてそれは君達にも適応される」
「私達もって?」
はやてがさらに怪訝な表情で男を訪ねると、男は淡々と説明を続けた。
「現状、君達がフェイト・テスタロッサの失踪関わっている可能性が高い、とうのが我々の見解だ。
 よって三名を除く君達の行動はいくらかの制限の中で監視させてもらう」
「そんな!?」
「ざっけんな!」
シャマル、ヴィータの抗議にも男は表情を崩さない。
「もちろん君達の生活を全て覗くつもりはない。外出時の行動と、魔法の行使。
 この二つについて常時監視がつくと思ってもらいたい。特に魔法の行使については注意を払ってもらいたい。
 結界や転送などの魔法を使用した場合、君達に余計な疑いがかかる」
「あの…じゃあ訓練もしない方がいいんですか?」
「訓練時の結界についてか?その場合はデバイスのデータをリアルタイムかつ全て送ってもらう事になるが、
 それでも良ければ可能だ」
「それくらいなら…まぁ…」
「他に質問や抗議はあるか?後日来られるより今対応した方が早いし、手間も惜しい」
「じゃあ最後に」
「なにかな?」
「もし事件が迷宮入り、みたいなんになったらどないするつもりですか?」
「ふむ、その説明が途中だったな。三名の拘留は短くて三か月、長くて半年をメドに審査が行われる。
 その際に関わりが薄いと判断されたり、解決の見通しが立たないなどの状況ならば解放される予定だ」
「そうですか」
「だからといって三か月で戻れるとは思わない方が良い。君達の精神的にも、な」
そして他のメンバーから異論がないと判断した男は振り返って合図を出しながら出ていった。
「では艦長、よろしいですね?」
「ええ」
「執務官も」
「ああ」
「シグナムさんも、抵抗しないようお願いします」
「わかった。だがその前に」
「?」
「主に一言いいか?」
「…急いでください」
「感謝する」
シグナムの頼みに、局員は一言告げて扉へ向かって行った。
「シグナム…」
「主、私は絶対に帰ってきます。テスタロッサを連れて。ですのでご安心ください」
「…うん。待ってるよ」
シグナムの言葉はなんの確証もない事ははやてにも分かっている。
だがはやては笑ってシグナムを送り出した。
それがお互いの為だと思って。
「では我々はこれで撤収しますが、アースラはこれより本局に移動する事となります。
 代理艦長がすぐに到着するのでその指示に従うように。
 その後、乗員は連絡があるまで自宅待機となります。
 それと、君達は今の内に家に帰りなさい。このままアースラに乗っていてもしょうがないだろう?」
残った局員は、なのは達にそう言い残して去っていった。
「っなんなんだよ!あいつら!シグナムがなにしたってんだよ!」
「ヴィータちゃん…」
「落ち着けヴィータ」
「ヴィータ」
「はやて…」
はやてに頭を撫でられると、ヴィータはそのままはやてに抱き着いた。
「エイミィさん…」
「うん、大丈夫。艦長もクロノ君もシグナムさんもきっと大丈夫。それにね」
「?」
「さっき話を聞きながらあの男の人を調べてたんだけど、相当なやり手だね」
「やり手とは?」
「うん。監査部に何十年も所属していて、誤認逮捕や冤罪は一回も無し。徹底的に調べる反面、
 一切感情移入しない事で有名みたい。そういう意味では安心かも」
「ならええんですけど…」
「とにかく皆はお家に帰りな?しばらくは連絡も取り辛いだろうけど、何かあったら連絡するからさ!」
エイミィの自信たっぷりな表情に、なのは達は少しだけ癒された。





















一方その頃、当のフェイトはというと。
『………』
液体で満たされたポッドの中を漂っていた。
『………』
フェイトの意識は無いようにも見えるが、薄らと口角が上がっている事から完全に意識を
消失していはいないようだった。
やがてブザーと共に液体が抜けきると、フェイトはゆっくりと瞳を開けた。
その瞳は黄金色に輝いており、無機質な光を宿していた。
フェイトは傍らにあったリボンを手に取り、いつものように髪を結ぶ。
そして黙々とスーツに袖を通していく。
テストモニター3
その表情には快楽も笑みも現れていなかった。
無表情で皺を伸ばし終えたフェイトは、誰に指示されるまでもなく歩きはじめた。
『まったく面倒を起こしてくれたものだな』
「おやおや、私としてはそちらの指示に従ったつもりですがね」
『白々しい。貴様の雑な後始末は我らがするのだぞ?』
「それも含めて、とお伝えしたつもりでしたがねぇ?」
『貴様…』
フェイトが部屋に入ると、そこには白衣を着た男、ジェイル・スカリエッティがモニターに
向かって話をしている最中だった。
「この技術を使えば口先三寸で高ランク魔導師を我々に忠実な下僕とできる。
 それを証明できたのですからその辺りはご容赦願いたい」
『確かにそれについてはよくやった。この技術が量産できれば我らの正義をより広く世界に伝える事ができる』
『うむ。己の自己満足な正義感に囚われず、我らの正義を行えるようになれば世界は平和になるだろう』
『その為にはやるべき事が残っている。分かっているな?』
「ええ、分かっていますよ。その為に彼女達を拘留したのでしょう?」
スカリエッティが開いたモニターには、簡素な囚人服に身を包み簡易ベッドに腰掛けている
リンディ、クロノ、シグナムが写っていた。
「それで、彼女達はどのように?」
『執務官は残った者達の事もあるからすぐに解放する。残り二人は貴様がなんとかしろ』
「なんとか、とは彼女のように?」
『いや、戦闘機人への改造には時間と手間がかかりすぎる。よって我らがいつでも操れるようにしておけ』
「また難しい事を簡単に言ってくれますね?」
『元々は貴様が招いた事だ。後始末をこちらに押し付けるな』
それを聞いたスカリエッティは、やれやれといった表情で肩をすくめた。
『二人への調整が終わった段階で解放し、その後フェイト・テスタロッサを回収させる。
 それまでに調整を終わらせておけ』
「承知しました。ではまた」
スカリエッティがわざとらしく頭を下げると、モニターは消えた。
「まぁったく相変わらず馬鹿ですねぇ?あの三人」
通信が終わった事で、周りにいた戦闘機人の一人、クアットロが口を開いた。
「この子が自分達の駒だと勘違いしてる辺り、救いようのない馬鹿ですよねぇ?」
「そう言うな。我らが奴らに忠誠を誓っていると思い込んでいるからそう考えるのだろう」
「それでもですよ、ねぇ?お嬢様?」
「よくわかりません」
クアットロの暴言に、トーレは呆れたように返す。
フェイトはクアットロに頭を撫でられながら簡単に答えた。
「ドクター、今後はどうなさるおつもりですか?」
「そうだね…」
「ドクター、いいかしら?」
スカリエッティが思案していると、ドゥーエが手を挙げた。
「なにか思いついたのかい?」
「ええ。私はこの子の教育をしたいのだけれど、いいかしら?」
ドゥーエがフェイトの肩に手を置いて、にっこりと笑みを浮かべた。
「それは構わないが、どうしてだい?」
「せっかく手塩にかけて引き込んだ妹ですもの。ちゃぁんと私達好みになるように教育してあげないと」
「ちょっとドゥーエ姉様ぁ~私の教育はどうなるんですかぁ~?」
「あら、貴方も一緒のつもりだったんだけど?」
露骨に突っかかるクアットロだったが、ドゥーエはさらりとそれを返した。
「わ、私もですかぁ~?」
「ええ。貴方への教育がどの程度進んでるかの確認にもなるし、ね」
「…それでしたら賛成ですぅ~!」
ドゥーエの意図を悟ったクアットロは、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「では私とドクターは例の二人の処置、そしてトーレは施設の護衛。よろしいですか?」
「ああ、いいとも!クフフ!高ランク魔導師に闇の書の守護騎士プログラム!
 最高に楽しめそうな素材だ!」
スカリエッティは楽しそうにコンソールを叩き始めた。







とある研究所。
その場所には管理局の捜査員達が押し入っていた。
理由はこの研究所が違法研究に加担していた、という事。
「おい!そっちはどうだ?」
「駄目だ。此処にあるのはたいしたデータじゃない」
「よし!次だ!行くぞ!」
「「はい!」」
小隊長が号令をかけて進んでいくと、急に開けた空間に行きついた。
「止まれ!おい、この場所はなんだ?」
「…わかりません。提供された地図上には載っていません」
「ビンゴだな。この先にあいつらの…?」
小隊長が手ごたえを感じていると、いつの間にか目の前に人が立っていた。
それは幼い体つきの金髪を首元で結わいた少女。
赤いラインの入ったバイザーを付けている為、顔はわからないが戦闘装備らしきスーツと
手に持った二刀のデバイスらしきものを見る限り敵の用意した防衛機構だと考えられる。
「α-1、α-2は前衛、それ以外は援護と周囲の索敵。いいか?相手が一人だからと言って
 油断す」
小隊長が指示は最後まで聞こえなかった。
それもそのはず。
小隊長の首から上は消えたようになくなっていたから。
「え?」
それは誰のセリフだったかわからない。
一瞬の出来事。
彼らの脳がそれを認識する前にまた一人、首から上が消える。
ほんの数秒の出来事だったが、その場にいた管理局員達は物言わぬ死体へと成り果てた。
そんな彼らをバイザーの少女、フェイトは見下すように見つめていた。
「はぁ~い、よくできましたぁ~」
そんなフェイトに近付いてきたのはクアットロとドゥーエの二人だった。
「とってもお上手よぉ~さすがドゥーエ姉様お手製の子ねぇ~」
「もう、クアットロ?こんな所でも猫被らなくてもいいじゃない?」
「嫌ですぅ~私が本当の私を見せるのはドゥーエ姉様と『フェイティア』の前だけですぅ~」
「あらあら」
「ありがとうございます。クアットロ姉様」
『フェイティア』
それが今のフェイトの名前。
プロジェクトFATE。
彼女が生まれた技術の名前が彼女の名前だった。
だが今の彼女はもはやかつての彼女ではない。
よって新たな[[rb:名称 > 名前]]をドゥーエから与えられていた。
プロジェクトFATEから派生したタイプα
それを繋げて[[rb:FATE-α > フェイティア]]。
すでに彼女にかつての記憶は存在しない。
その身にあるのは自身が扱える戦闘技術とスカリエッティやナンバーズへの
絶対的な忠誠心だけだった。
「あら…フェイティア、貴方アレを殺すのは楽しかったの?」
「?何故でしょう?」
「だって貴方…笑ってるわよ?」
そういってドゥーエはフェイトのバイザーに今の彼女の顔を映す。
そこには確かに口元がつりあがり、残酷な笑みを浮かべているフェイトが映っていた。
「…これが楽しい…という感情なのですね」
「ええ、そうよ。貴方はドクターと私達の敵を倒す事に歓びを感じているの」
「そして私達の役に立てているという事にも、ね」
口調の変わったクアットロとドゥーエにそう言われたフェイトは、益々嬉しくなっていった。
「はい…私は楽しいです。ドクターや姉様達に逆らう敵を嬲り殺す事が!
 姉様達のお役に立てる事が!」
ドゥーエとクアットロの教育によってフェイトの精神はもはや別人に変質していた。
スカリエッティの下で改造されてからは感情の起伏がほとんどなくなった彼女であるが、
二人の邪悪な教育によって邪な感情に歓びを感じるようになっていた。
「さて、残りの雑魚も片付けるわよ。できるわね?」
「はい…!一人残らず殺してきます…!」
「ええ、本当はじわじわ嬲り殺す楽しみも教えてあげたいけど、今は貴方の事をなるべく
 隠さなきゃいけないからまたいつか、ね?」
「はい、お願いします。クアットロ姉様」
バイザーをつけている為にフェイトの表情は半分ほどしか見えないが、舌なめずりをし
身体を小刻みに震わせるのを見る限り、彼女はその事を想像して感じているのだろう。
ドゥーエがテストと称して執拗にフェイトに刷り込んでいた命令に従う快楽と
敵を倒す快楽は、記憶が消えた今でもフェイトの中に残っていた。
まるで魂に刻み込まれしまったかのように…
そしてフェイトの姿が消える。
ドゥーエ達が研究所の監視システムを起動させると、一つまた一つと生体反応が消えていく。
その速度はだんだんと上がっていく。
自身に内蔵されたシステムを理解していくと共に、フェイトはより強い快楽を求めて
管理局員達を惨殺していった。
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